【書評】『依存症ビジネス「廃人」製造社会の真実』〜きっかけはすぐそこにある
- 作者: デイミアン・トンプソン,中里京子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2014/10/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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自分は依存症とは無縁だと思っている人は意外に多いかもしれない。あるいは、ソーシャルゲームをプレイしている人は、自分のことをなんとなく「依存症」と呼んでいるかもしれない。
本書に登場する何らかの依存者たちは、何かのきっかけでアメリカの「依存症ビジネス」に取り込まれてしまった「患者」である。
“私は1990年代後半に、頭がよく、チャーミングで、強い社会的野心を抱いた2人の若者ーーロビンとジェイムズーーと知り合った。
(中略)
大学を出たあと、2人は、努力を必要としない仕事から仕事へと渡りあるいた。その過程で、パブリックスクール出身の飲兵衛たちといっそう多くの時間を過ごすようになり、そのつきあいを通して習慣性の高い非合法薬物にも手を出すようになる。”
著者はこうした人たちを苦しめているのが、依存症を「病気」として扱うせいだという。そして同時に、依存症は病気ではないのだと主張する。
“「依存症は、脳内の報酬、動機、記憶、およびそれらに関連する回路における原発性の慢性疾患である」と、ASAM(※1)は宣言する。
(中略)
依存症は、一貫して自制する能力の欠如、行動を制御することにおける障害、渇望、自己の行動および対人関係の及ぼす重要な問題に対する認識能力の低下、および情緒的反応の機能不全によって特徴づけられる。
他の慢性疾患と同様、依存症には、しばしば再発と寛解のサイクルが伴う。治療あるいは回復への取り組みを行わなければ、依存症は進行し、障害あるいは早死にをもたらす可能性がある。
だが、彼らの定義が隠しおおせなかった事実ーーむしろ意図せず露呈してしまった事実がーーある。それは、依存症は、あまりにも複雑な現象であるため、癌や結核が疾患であるのと同じような形で疾患として分類することはできないという事実だ。ゆえに、こんな無駄口をたたくはめになる。”
※1.アメリカ依存学会の略称
先ほど引用したロビンとジェイムズは、著者が出会った中でも「もっとも立ちなおる見込みのない依存者」だったようだが、ロビンは著者のもとを離れてから五年後には、ガールフレンドと生まれたばかりの子供、ソーシャルメディアの仕事に就いて、家のローンを支払えるようになったという。それも、依存症を病気だと決めつけている人たちが提唱した治療法に頼らずに。
“「ぼくのホームメイドの更生は、時間がかかるやっかいなプロセスだった。失敗もしょっちゅうだったしね。だが、結局のところは成功したよ」”
そしてもうひとり、ジェイムズはマンションから飛び降りて自殺したという。本書を通して著者が主張するのは、依存症は自分の意思で治せるということだ。そして、おなじみのアルコールやギャンブル、ドラッグだけではなく、第4章「お買い物とヘロインとお酒の共通点とは?」や第5章「スイーツはもはやコカインだ!」など章を分けて、カップケーキやショッピングなど、我々の身近に依存症へと誘う危険が蔓延していることを教えてくれる。
きっかけはどこにあるかわからないのだ。しかし本書を読めば、少なくともそれが身近に潜んでいるということはわかる。自分は依存症とは無縁だと思っている人にこそ、強くお勧めしたい一冊である。