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【書評】『モチベーション3.0』~なんのためのに働くのか

 

 

 

本書は人間の仕事に対する“やる気!”をいかに引き出すか、という内容に終始している。タイトルにある「3.0」とはバージョンのことで、著者のダニエル・ピンクは人間の仕事に対する動機が時代とともに移り変わっていること、または移り変わっていく必要があると指摘しており、巻末には個人と組織それぞれに向けた“やる気!”を引き出すためのノウハウが収録されている。

 

1.0は「生存のためにどうしてもやらざるを得ない」という理由、2.0はアメとムチの動機づけ、つまり外発的な報酬がモチベーションになっている状態を表し、3.0は内発的な報酬が原動力になっていることを表す。内発的な報酬とは自己実現のことだ。簡単に言えば、自分がしたいことをするということである。自分のしていることに自ら喜びを見いだし、進んで行動するのだ。

 

マズローの欲求のピラミッドを知っている人には、これは当然のように思えるかもしれない。ピンクの分類によるこのモチベーションの“バージョンアップ”は、分かりやすくピラミッドのヒエラルキーを下から上へと目指している。

 

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http://keishixx.com/archives/3028

 

この図で言えば1.0は生理的欲求を、2.0は安全の欲求や親和の欲求を、そして3.0ではそれより上の欲求を満たす。時代とともに人間は欲求を満たせる環境を作り上げていった結果、何が仕事の動機になるかも変わっていったのだ。本書で紹介されるマイクロソフトMSNエンカルタウィキペディアの事例が良い例である。

 

外発的動機づけが主流であり、マイクロソフトWindows95がリリースされた頃には、まさかプロが報酬を得て作った辞書が、多くの素人によって、しかも無償で執筆されている百科事典に負けるとは誰も思っていなかったはずだ。金をもらえるわけではないのに、ウィキペディアは今なお“ボランティアたち”によって改良され続け、かたやMSNエンカルタはプロのライターや編集者に依頼し、多数の項目を有料で執筆してもらっていたのに、2009年に15年間続いたサービスを終了したのだ。

 

ヒエラルキーになぞらえれば、ある程度以上の金を稼ぎ、生活が安定、会社や社会に所属しているという欲求が満たされた結果、それ以上の欲求を求めて、自分がやりたいことをする人が増えたということだ。金銭的なインセンティブがあるからといって、あるいは何か罰を受けるおそれがあるからといって人々が仕事に励んでくれるとは限らないのである。そしてオープンソースが台頭した今日では、ウィキペディアに代表される内発的動機づけを利用したモチベーションのマネージメントが主流になりつつあるのだ。

 

“たとえば、自宅のコンピュータを立ち上げてみよう。ウェブサイトで天気予報をチェックしたり、スニーカーを注文したりするとき、ファイアーフォックスという無料のオープンソースのウェブブラウザを使用しているかもしれない。これは、ほぼ例外なく世界中のボランティアによって作成されたものだ。自分の製品を無料で提供する、無償の労働者だって?(略)そんなインセンティブなどありえない。(略)ところが現在、ファイアーフォックスのユーザーは一億五〇〇万人を超える。

 

(中略)

 

それは、世界中の何十万というソフトウェアのプロジェクトに限ったことではない。今では、オープンソースのお料理レセピー、教科書、自動車デザイン、医療研究、(判例集などの)訴訟関係資料、写真集(略)まで見つかる。”

 

ある調査によれば、こうしたオープンソースに携わっている人たちは、様々な動機でプロジェクトに参加しているものの、“楽しいからという内発的動機づけ、つまり、そのプロジェクトに参加すると創造性を感じられることが、もっとも強力で多くの人に共通”しており、また別の調査では、“かなり高度なソフトウェアの課題克服する楽しみ”や“仲間のプログラマーの世界に貢献したいという欲求”が動機になっていることも分かった。

 

インターネット無くして仕事が成り立たなくなっている現在ではもちろん、今後はシェアリングエコノミーが台頭するはずだから、ますますオープンソースでの仕事は増えていくだろう。そうなった時に求められるのは、内側から湧いてくる意欲であって、少し前まで当たり前だったバージョン2.0のモチベーションではないのである。

 

蛇足だろうが、本書の原題は『DRIVE』で、これは「やる気」を意味している。「モチベーション」と「ドライブ」は語感的にも近いらしいが、前者はどちらかと言えば「動機」という意味が強く、後者はエンジンがかかった状態のような、継続的なやる気を表しているようである。例えれば点と線のようなものだろう。タイトルには日本人に分かりやすい「モチベーション」を使い、副題には“持続する「やる気!(ドライブ!)」をいかに引き出すか”と「ドライブ」を持ってきたのにはそういう意味があるかもしれない。